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「――何故、裁判官になったか、と?」 「はい」 目の前の、緊張した面持ちの若者に、キルシュはまたか、と内心で思う。 年が変わり、新たに裁判官の卵がやってくる季節になると、きまって同じ質問を受ける。 誰に答えたのか、思い出せないほど、キルシュはその問いに答えてきた。それも、飽きもせず、全く同じ答えを。 「縁があった。ただ、それだけですよ」 清廉潔白な法の守人。司法の庭に住む魔物。 様々な言われ方をしていることは知っている。その正義の使徒というイメージへの羨望の眼差しも、自分に対する称賛の声も。 けれど、そのどれもが不相応なものなのだと知っている者は数少ない。 それが仕事なのだと割り切ってきた。そういう風に見せることもまた、務めなのだ。 「司法の庭に住む魔物、か」 そうだ、不満に思ってはいない。 けれど、時折考えてしまう。 汚れた手を見つめて、自分は汚いのだと自嘲し続けることは辛い。 だが、汚れた手を隠して、自分こそはと胸を張り続けることにも疲れてしまう、自分はやはり甘いのだろう。 覚悟さえあれば、汚れたことでさえ、勲章に出来るはずなのだから。 ――そうなのだろうか。 ぼんやりと空を見上げる。 誰が知るだろう。この、司法の庭に住む魔物達。 正義の天秤を司る人々が集うこの地で、ひときわ庶民出の裁判官として、神聖視されてきた、キルシュ・ビバルディたるものが。 そんな大それたことなど、考えたことがない、などと信じてくれる者はあまりいなかったりする。 誰もいないところで、こっそり欠伸を噛み殺し、大きく伸びをする。 法廷に入る前、ある意味、仕事と仕事の合間が、一番退屈で眠くなってしまう。 (なんというか) やっぱり庶民出ってのは、考え方のスケールまで小さくなるのかね、なんて思ったりしてるとか、そんなつまらないことで悩んでみたりしても、次の日にはすっかり忘れて適当に遊び歩いたりなんかしてたりとか、それでもそういうのが妹にばれて、兄貴の威厳を失うのはちょっとだけ怖いとか。 普通過ぎるくらい、普通の生き方をしている自分。 魔物とか司聖とか呼ばれている自分。 その二つがあまりにもかけ離れ過ぎて、時々、自分でも良く分からなくなるのだ。 |
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素材配布元:「神楽工房」様