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その人に会う為に、花畑へ行く毎日。不純な目的で通っていたヨーゼフの方が上達したというのに、その人の腕前は相変わらずだった。 いつも花冠を作っていたわけではない。だが、口数の少ない相手と会話が成立することは少なく、その人の素性を知ることは出来なかった。 花畑に通うようになってから二週間目のある日、意を決したヨーゼフは。 「これをあげるよ」 いつもより早くやってきて、編み上げた花冠をその人にかぶせた。その人は少しだけ戸惑っていたが、やがてふわりと微笑んで、 「ありがとう」 嬉しそうにそう言った。 「いつか」 「え?」 「いつか、本物をあげる。僕のお嫁さんに迎えるから」 それだけを告げると、急に恥ずかしくなって、駆け出してしまった。 翌日、また変わらぬように会えると、そう信じて。 それっきりになるなんて、思いもせずに―― 下らぬ謀略は、なりをひそめたかのようにみえた。 だが、ヨーゼフの知らぬところで起きた、ある親子の対立は、全く別の方向へと害を広げることとなった。 最初、密偵のバロンより、その報せを受けたヨーゼフは耳を疑った。 「何――?」 聞き返したヨーゼフに、彼は更に同じ報告を繰り返した。しばらく呆然としていたヨーゼフは、とさりと背もたれにもたれかかる。 「あの侍女が? そんな馬鹿な、盗みの罪で捕まった、だなんて。そんな娘ではなかったろう」 「まぁ、濡れ衣でしょうな。大方、裏切りに対する報復といったところでしょう」 「報復だと」 身を起こしたヨーゼフの目は、憤りに満ちていた。 「彼女は、私を助けてくれた人だ」 「しかし、仮にも相手は王の寵姫。誰も異議は挟めますまい」 「何とか、証拠を集めてやるんだ。あいつらの企みだという証拠を!」 激昂するヨーゼフに対し、彼はあくまで冷静だった。 「それでも、救えないかもしれません。確かに司法制度は王に対し、絶大な監視力を持っている。だけど、やはり王ににらまれれば、やりにくくなるでしょう。元々、それなりの地位があれば別でしょうが、そうでない者がどうして、そこまでの危険を払いましょうか」 「あの男は」 とっさに思い浮かべたのは、かつて王の政を違法と糾弾した、稚くも激しい気性を持つ男。そして、ヨーゼフを相手に、一歩も引かぬ姿勢を見せた青年。 「アリュード。あの男ならば、王にも刃向かおう」 「確かに、アリュード・ヒルズは司法の名門ヒルズ家の出身ですからな。誰も手出しは出来ない。それが分かっているせいでしょうな。アリュードは先月の騒ぎの責任を取らされて、現在休職中です」 思わず唇をかむ。家臣の手回しの良さが頼もしくも腹立たしい。それとも、自分の不始末を恨むべきか。 「では、誰が裁判を担うのだ」 「キルシュ・ビバルディという男です」 「どういう男なのだ」 「ヒルズ氏の同僚ですが、彼は平民出身です。多少、ヒルズ家の後ろ盾があるとはいえ、立場は弱く……」 彼はしばらく言いよどんだ後、ささやくように告げた。 「そして、キャスリン・ビバルディの兄です」 ヨーゼフは、動きを止めた。 彼の脳裏に、美しく、今にも手折られそうな娘の姿が、初恋の人に似たしとやかな少女の姿がよみがえる。そして、はっきりと別の男が好きだと告げた瞬間も。 彼女は未来の王よりも、情熱的な裁判官を愛したのだ。 「それでも、守ろうと思えるか?」 「当たり前だ」 そう答えたヨーゼフの目には、迷いなど欠片も存在していなかった。 |
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素材配布元:「神楽工房」様