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珍しく私室で本を片手に過ごしていたヨーゼフの元に、バロンがやってきたのは、もう夜もふけた頃だった。疲れを滲ませた彼は、数度肩を叩きながら、 「彼女の名はキャスリン・ビバルディ。二十二才」 報告を一言たりとも聞き逃すまいとしていたヨーゼフは、それを聞いて驚く。 「二十二……私より二つ下?」 記憶の中のその人をおもい返すが、ヨーゼフより下という印象はなかった。 「とてもそうは見えなかったが」 「そりゃ、子供の頃の話でしょう。女ってのは、基本的に男より成長が早いんですから、年上に見えても不思議じゃありませんよ」 「そういうものだろうか……」 どうも釈然としなかったが、元々ヨーゼフは女性全般に疎いところがある。バロンの発言を否定するだけの根拠は持てなかった。 「まだ、あんまり詳しく調べちゃいませんが、身よりは兄一人。ただ、この兄貴が引っかかるんですな」 「引っかかるとは……まさか、そんなにろくでなしなのか?」 思わず薄幸の美女とごく潰しの兄という図を思い描いたが、それはバロンによって否定される。 「キャスリン嬢もそうですが、彼も平民です。それでも彼は、アリュードと同じ最高裁判官を務めている。ただ、平民出身の彼が、どうやってこの職についたかといえば、どうやら裏にヒルズ家の後押しがあってのこととの噂で」 「つまり?」 「キャスリン嬢は、兄貴共々、ヒルズ家に逆らえない立場にある訳ですよ。だからこそ、アリュードはあそこまで強引に出られるんじゃないでしょうか」 「酷い話だな」 思いきり眉をひそめたヨーゼフに、ただし、と念を押すように付け加えられる。 「ま、後押しと言っても、この兄貴、なかなか優秀でね。実力でいっても、今の地位にはい上がることは可能だったでしょう。それを踏まえっと、ただのやっかみにも取れるんですが」 「……そうか」 「とにかく、会って話してみちゃどうです? 全ては、それからでしょう」 頷いたヨーゼフを見、バロンは退室しようとした。 「ああ、後、一つ朗報」 扉から顔だけ出し、思い出したように付け加える。 「キャスリン嬢が昔、住んでいた場所だがな、丁度、その花畑のあるところだったそうだ」 その頃、大臣達もまた、キャスリンの調査を行なっていた。 だが、彼等の場合、ヨーゼフとは違い、どうやって娘を陥落するか、そこにしか焦点はなかった。 「しかし、いくら最高裁判官の妹とはいえ、所詮は平民の出。まだ間に合いますぞ。こうなれば、いかな手を使っても、あの娘を殿下の元へ」 「うむ」 しかめつらしい顔で議論する彼等には、牽制が見えた。互いに腹の内を探ろうと、目をこらす。 その中で、一人悠然とした顔の男がいた。 場に顔を並べた面々を、愉快そうに見据える瞳には、勝ち誇った色さえある。 話し合いという名の策謀は、朝まで続いた―― |
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素材配布元:「神楽工房」様