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「……これは、俺に対する挑戦だろうか」 「王子、スマイルスマイル」 「さっきから、しているだろう? ……ひきつりそうなほど、な」 グラスが砕けそうな勢いで握り締められたのを見、バロンは小さく肩をすくめた。 誕生日といえば、子供の頃は当人が一番楽しい。だが、二十四にもなれば、もう浮かれるようなものでもない。 だが、何も好き好んで、苦痛を味わうこともあるまい。 先ほどから、押し寄せる女性達の厚かましい、もとい熱いラブコールに、ヨーゼフは失神寸前だった。 確かに承諾したのは自分だ。つまり、これは自業自得ということなのだろう。 いやしかし。否しかし。 こんな凄まじいことなど、予想出来るだろうか、いや不可能だ。 よれた服をそのままに、椅子の背もたれによりかかる王子は、こうした晴れの舞台にも関わらず、少しみすぼらしくも見えた。兵士達が牽制している向こう側では、娘達が甲高い金切り声を張り上げているのが見え、思わず頭痛を堪えた。 また、あの渦の中に入っていく勇気などない。だが、あの中に入らぬことには、とてもこれだけの娘の中から、あの人を見出すことなど出来ないだろう。 だが――はたして、本当にあの人がいるのかさえ分からない。 全ての娘と約束したが、それでも、本当に全ての娘がここに集ったわけではないことを、ヨーゼフは既に見とっていた。もちろん、サーシャルが嘘をついたという意味ではない。彼は最大限に努力した。 だが、既婚者はその対象の中にはいない。 ひょっとしたら。そう考えると、王子の胸は穏やかではいられなかった。何とか、この中から初恋の君を見つけだして、この不安を解消したい。年が経てば経つほどに、大きくなっていく焦りをなだめながら、ずっとそう願ってきたのだ。 意を決し、再び立ち上がった王子は、ふと少し高くなったテラスから、階下を見下ろした。 国中の娘が集められたとはいえ、正体客の中には男性も多く含まれている。それに、集まった娘にしても、全てが全て、王子に群がっている訳ではない。別の貴公子目当てに来ている娘もいる。 だが、そんな輪とも外れたところに、一人所帯なさげに佇む女性がいた。 「あれは――」 黒い髪を綺麗に結い上げて、慎ましやかにたたずんでいる女性。うつむき加減の瞳は、困惑のせいか零れそうに潤んでみえる。 どきり、とどこかが音を立てた気がした。動揺のまま、移した視界に入ったのは、女性の美しい指先。白く、長い指を見た瞬間、王子は階段から階下へと駆け下りていた。 |
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素材配布元:「神楽工房」様