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田園国家と言われる、緑豊かな農業国。 そして緑豊かな王都は、他の国に類を見ぬ治安の良さを誇っていた。 高い水準で行き届いた教育。高い識字率。 現在の王、ジョルジュ十七世は無能王と評判だったが、その正妃ディアーナ王妃は非常に聡明な女性で、政治を省みない夫に代わり、長らく重責を果たしてきた。 そして、とかく分散しがちだった国政を、王の元に終結させ、絶対王政の栄光を取り戻す。だが、その後も彼女は謙虚に政治を動かし、決して官僚の判断を軽んじることはなかった。 軽くメモを取りながら、静かに拝聴する女性に微笑みかけて、男は大きく咳払いをした。軽く眼鏡がずれて、鼻の頭にかかる。それを神経質に直しながら、彼は話を続けた。 「つまり、だね――本来、脆弱だった王の権力は、ここで復活した」 「じゃあ、その時、最高法院は?」 「うん――その時ばかりは、王権の機嫌を取らねばいけない位置まで落ちぶれた。今でも、その風潮は抜け切っていない」 青年は難しい顔で、軽く額に指を当てた。その指の横を、さらりとした金髪が触れる。 大きな眼鏡で隠されているが、青年はなかなかの美貌の持ち主だった。ただし、その眼鏡を外せば、この目の前にいる女性よりも大分年下のように見える。 それが、彼の悩みではあった。 「このままでは、司法院の独立は消え去り、王に従属する組織になってしまいかねない」 「まぁ。そんな、最高裁判官の貴方が、それをお認めになるのですか?」 「うん――不本意だけどね。あ、でもね。まだ続きがある」 しかし、二人の息子ヨーゼフが八才の年、彼女が若くして亡くなった後は、国政は非常に乱れた。ジョルジュ王は大層人の良い男だったが、癇癪持ちで浅慮な人間。 だが、その無能王がディアーナの遺した栄光を受け継いだのだから、目も当てられない。 明らかに、王はその権力を持て余す程度の器しか持ち得ていなかった。 そしてヨーゼフ王子、十八才の年。かの王子が皇太子として地位をかくたるものにする直前。ついに最高法院が反旗を翻した。 本来、司法の力は、王さえも逆らえぬ絶対の秩序として、この国では機能していた。それを王政に圧される形に甘んじていたのは、王が間違いを犯さなかったからに他ならない。 だが、王が法を圧迫し、法の平等を損なうとあれば、態度も変えざるを得ない。 「――ま、そういう訳だ。その時、最高裁判官に抜擢され、噛ませ犬として使われたのが、知っての通りの人なんだが」 話つかれたのか、青年は軽く腰を下ろした。それを見、女性は少し意地悪く笑う。 「つまり、貴方のことね」 「俺と後一名。しかし俺らの抜擢の影には、ヨーゼフ王子が主導権を取った、身分制登用の廃止令があるんだからな。ま、俺達は持ちつ持たれつってところなのさ」 そう言うと、男は自分の胸元に輝く銀のバッチを撫ぜた。その指使いは繊細で、そっと触れるという言葉が相応しい。 「こんな所で良いかな、キャスリン」 「ええ、ありがとう」 にこりと微笑むキャスリンとは対照的に、男性は複雑な表情を浮かべていた。 「しかし――勉強家だな、君は」 「ええ、少しでもお兄様の役に立てるようになりたいのです」 当然のように答えた彼女を、彼はただ眩しげに見つめていた。 |
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素材配布元:「神楽工房」様