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4,ランダム
ただの気まぐれだった。野放図に育てられた王子が、宮廷で目に留めた騎士に興味を持ったのは。
「あの騎士は一体?」
「ああ、陛下が最近、お取りたてになられた騎士ですよ。名前は何て言ったかな――」
「名を知る必要はないだろう。どうせ、すぐに忘れる」
ぽつんと談笑の輪から外れたところにいる男。目に留めたのも偶然ならば、一歩踏み出したのも気まぐれ。ただ退屈しのぎにからかう相手を探していただけのこと。
一人でいる騎士なら、誰でも良かった。
「殿下?」
側近の問いかけを無視し、王子は彼に歩み寄った。近づいた気配を察してか、彼は顔を上げる。だが、王子を目にした彼が、動じることはなかった。
ただお愛想程度に、頭を下げただけ。
「なぁ、お前」
「はい」
「俺のものになれ」
唐突な言葉にも、彼の表情は変わらない。彼はそっけなく目を伏せた。
「――主命とあらば、命に添いましょう。ですが、貴方は私の主君ではない」
この言葉に、王子は面食らった。ゆっくりとかぶせた言葉が、かすかにだが震えていた。
「俺は、次期国王だぞ」
「私の主君は現国王陛下ただお一人。陛下が殿下に従えと仰せになるのなら、その時にはこの身は全て貴方のものに」
しばらく、王子は無言だった。くいしめた唇に、軽く親指を触れさせ、
「面白い」
かすれた声で、その一言を口にした。やがて、その喉から、鳩の声に似た音が紡ぎ出される。ひとしきり、くぐもった笑いを立てた後、彼はやっと顔を上げた。
「実に面白い。だが、もう一つの可能性を考慮に入れておけ」
顔色こそ白いが、その目は既に、いつものような余裕を見せていた。
「俺が国王陛下になることだ」
ばさりと、マントをひるがえして立ち去る王子の背に、抑揚のない答えが届いた。
「それが天命ならば」
振り返った先で、冷然と笑うその顔は、忠実なしもべというよりはむしろ、別の称号が似合う。
――傾国の美女。
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