web拍手用SS

1,称賛

 そいつは、屋根の上から悠然とこちらを見下ろしていた。
「ありがとう。称賛こそ、私の励みになる」
 そして、不敵にもぺこりとお辞儀をする。その面に、僕は精一杯の罵声を投げかけていた。
「誰がいつ、賞賛した! 誰も怪盗なんか応援するもんかーーっ!」
「おや、マイハニー。ヤキモチかい? ふふ、それも一種の称賛だね」
「だ・れ・が焼餅なんか焼くか、この自己陶酔野郎!」
 びしっと手錠を突き出しても、相手は屋根の上。滑稽なこと、この上ない。
 相手もそれは承知しているのだろう。余裕たっぷりに、おどけてみせる。
「つれないねぇ。まぁ、だからこそ、盗みがいがあるってもんですが」
「誰が盗ませるかってんだ。その前に、俺がお前を捕まえる」
 そう言いながら、必死に屋根に登ろうと、試みる僕。……ああ、明智小五郎に憧れて、探偵になったはずなのに、これではまるで銭形警部ではないか。
 屋根の上から、笑いを含んだ声が降ってきた。
「つまり、私を独占したいってことかな?」
「永遠に俗世から隔離させてやるってことだよ!」
「おや、奇遇だ。私もそう思っていたところだよ。君を、永遠に僕のものにしたい」
 その瞬間、ぞわりと背筋に悪寒が走った。理性のたがをかけ直している余裕などない。僕は迷わず拳銃に手をかけると、屋根に向かって発砲していた。
「動くな! 湧いてる頭がマシになるよう、風穴通してやる!」
「おやおや、マイハニーの愛は過激だなぁ」
「だ・れ・がハニーだ、この色ボケ怪盗が!」

 深夜の町に、さらに数発の銃声が響き渡った――
INDEX
Copyright (c) 2004 YusakiKawane All rights reserved.

- Powered by 小説HTMLの小人さん -